TR040
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資料・技術全般 の解説
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読ん得・積ん得 絶縁監視の導入にあたって
電気雑誌などに掲載した記事を加筆改訂しました。
電気技術者諸兄の御参考になれば幸甚です。
1.「絶縁監視装置について」
電気保安協会など主任技術業務の受託契約時の保安確保と効率化の道を拓く一環として技術開発された絶縁状態監視装置は特高需要家などの保安効率化と停電短縮の目的で広く普及しつつある。
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1.はじめに
--------------------------------------------------------------------------- 1.はじめに
特高需要家など電気主任技術者選任事業所等での使用を目的としたIgr方式絶縁監視装置の開発主旨や経緯については「生産と電気」誌平成4年4月号で述べた。
以来約8年を経て最近では電気保安の目的に加えて点検停電の短縮や無停電化による設備やプラント・建造物等の使用効率の向上にもつながることが注目され新設設備の設計時に仕様化して導入するケースも増加している。
導入事業所では、従来ELB動作や焼損等の事故発生に至るまで発見できなかった浸水・冠水その他の絶縁劣化を早期に発見し事故障害を回避できた例や、在来工法で発見できなかった新築時や定検時の不具合を発見した例なども多く報告されている。
又、その運用を保安規程に記載し、保安規程の変更届け出でをするケースが多い。
即ち、低圧対地絶縁保全の方法を定期的な停電−絶縁抵抗測定に代えて常時の絶縁状態監視装置による監視に変更するわけである。
これは、頓に近年、自主保安規程に記載した低圧電路保全のための「停電−絶縁抵抗測定」作業が出来なくなってきたことに起因する。
もし出来たとしても、破損の恐れがある電子機器やプラントの制御系電路・コンセント使用機器などは除外されることが多い。
UPSの負荷系統など重要電路は点検できないなど笑えない珍現象も一般化しつつある。
このように実質上測定管理できるのは「電路の一部」にとどまり完全履行ができず責任不安を抱いていた事業所の責任者が「活線−Igr方式絶縁状態常時監視」が電気保安上従前以上に実質信頼性の高いことを認識した場合に低圧電路保全方法に関しての保安規程変更届け出でが行われる。
2.導入事業所における効果の事例
Igr方式絶縁状態監視装置は使用されてからまだ約15年ほどの新しい技術である。
その方法を一言で言えば漏電電力計法ともいえる方式である。
即ち、B種接地線を絶縁計測の電源として電路と大地間の絶縁インピーダンスに絶縁検出用の電圧を印加し、絶縁部分が消費する電力に相当する有効分電流(IR)の大きさで絶縁状態の良否を判定するものである。
従って、最近漏電警報器やELRの不必要動作の原因となる電路や機器の対地静電容量に流れる電流(透過電流)は無効分であるから検出しないので不必要動作の心配が極めて少なく高感度での安定な絶縁監視を可能としている。
このIgr方式は直流絶縁抵抗計の性質と類似する点が多い。
プロローグとして本題に先立ち絶縁劣化を発見した事例について御紹介する。
@:某製紙工場にて定検終了復電後換気扇絶縁不良を発見。
定検停電を利用して絶縁状態監視装置を取付けて復電すると電灯変圧器(接地線に ZCT 取付)で絶縁警戒が発生した。
携帯用の絶縁故障探査器で変圧器の負荷フィーダーのIR電流を調査のところ変電所内換気扇であることが判明した。
これを外して絶縁抵抗を測定すると0MΩであった。
★所見:定検ではコンセント接続の少容量負荷機器を外していたため発見できなかった。
A:某製紙工場にて定検終了復電後ロール紙切断機絶縁不良を発見。
定検停電を利用して絶縁状態監視装置を取り付け復電したところ200V動力変圧器で絶縁警戒警報が発生、まだ工場は仮稼働なので負荷送りのMCBを入り切りして確認したところロール紙工程送りのフィーダー系統であることが判明した。
携帯用の絶縁故障探査器で絶縁警戒の原因のIR(有効分漏れ電流)を追って調査したところロール紙切断器の絶縁が零、目視で点検のところ動力端子に多量の金属粉が積もっており清掃のところ回復。
★所見:低圧絶縁は、切り離せる電路毎の測定はしたが、ロール紙切断機が制御用電磁接触器の負荷側であるため停電時は絶縁抵抗測定範囲からはずれていた。
絶縁抵抗測定を依託した業者には工場内の制御を含めた電路のつながりが完全には把握できなかった為測定漏れとなった。
B:絶縁注意発生で浸水電動機を発見
某製紙工場で台風の翌朝出勤して絶縁状態監視装置を巡視すると動力変圧器で絶縁注意が発生IR電流で30〜40mAの値を示していた。
携帯用の絶縁故障探査器でIRの多いフィーダーを見つけ、更にフィーダー先の現場盤でIRを調査のところ購入後半年も経たない新品電動機の不良を特定、停電してメガーで絶縁測定のところ0MΩであった。
★所見:電動機を分解のところ内部から多量の水が出た。
真水で洗浄し乾燥の上再組み立てして検査の上異常なく使用出来た。
内部絶縁破壊などの起こる前に早期発見できたことが再使用を可能にしたものと思われる。
浸水原因は台風の雨水がVベルトを伝い軸受け部分から進入したらしき形跡あり。
C:絶縁注意で浸水水中ポンプを発見
某半導体工場で日常巡視の時に400V変圧器で絶縁注意の表示灯が点灯しているのを発見しIR電流値を見ると約25〜30mAを示していた。
携帯用絶縁故障探査器で調査のところ地下室水中ポンプと判明、生産工程の合間に絶縁測定のところ0MΩであった。
生産部門と打ち合わせ工程を調整し、水中ポンプを交換して一件落着。
★所見:水中ポンプのパッキン劣化は数年ごとに発生しELBが動作して停止する。
400V系水中ポンプは浸水しても漏電による零相分が少ない(変圧器も浸水部分も対地条件が平衡状態)のため、ELB動作時はすでにかなりの絶縁破壊が進んでおり再投入はほとんど出来ない。
生産工程の如何によっては数千万円の生産障害をおこした例も過去にある。
今回はIgr方式であり劣化箇所の総和で警報が出るため早期発見が出来、ELB動作前に段取りして交換が出来たので生産障害を回避できた。
D:定検終了復電準備完了で絶縁監視装置電源を先行投入のところ絶縁警戒及び重畳異常
警報が発生。
某電子部品製造工場で定検作業が終了し受電準備が完了したので絶縁監視電源を先行投入したところ絶縁警戒が発生、万端を尽くして調査をしたが原因が分からず、在来工法としての定検標準作業としては何回点検しても異常がなく翌朝は工場稼働日でありやむなく受電。 受電後は絶縁警報もなくなり異常なし。
★所見: 翌朝キュービクル内を再度詳細に点検のところ変圧器ケースに下がる細い裸線を発見、これを見ると明らかに過電流によると思われる溶断の形跡あり。 位置から想定すると高圧の耐電圧試験時に相間の短絡に使用したリード線が落下し変圧器ケースに引っかかり一端が変圧器R相に接触していたため絶縁警報が発生、受電の瞬間に溶断蒸発し地絡は解消されたため受電後は全て正常となったものと推定される。
幸い線が細くアーク量も少なく相間アーク短絡を免れたため被害なく終了したが場所や地絡異物の如何では大きな事故につながる可能性があった。
E:新築引き渡し時に非常灯取付での器具内リード線巻き込み地絡を発見。
某病院の新築工事で絶縁監視装置が絶縁警戒警報を発生、再度停電して在来工法による絶縁抵抗試験を行ったが絶縁無限大で異常なし。
電気JVの技術者が携帯用絶縁故障探査器をもって天井裏に入り転がし配線のケーブルを追ったところ洗面所奥の機械室内に設置された非常灯の地絡が原因と判明。
器具配線を外して絶縁測定のところ絶縁は無限大。
器具を開けて取付をみると器具内のリード線が取付ねじにより器具ベース鉄板に挟み込まれておりこれを直して一件落着。
★所見:器具をみると充電電池内蔵型のもので停電時に点灯し受電時は充電するもので停電時には内蔵継電器が回路を遮断しており在来工法で分電盤などから絶縁抵抗を測定しても当然無限大となることがわかった。
F:定検時に絶縁監視装置を取り付け、復電と同時に絶縁警戒警報発生。
都内の某事務系雑居ビルで定検停電を利用して絶縁監視装置を取り付け復電したところ電灯変圧器で絶縁警戒警報並びに重畳異常警報発生。
携帯用絶縁故障探査器で調査のところ某テナント使用設備送りのフィーダーを特定し、絶縁抵抗を測定のところ0MΩであった。
★所見:定検のため全館休業でテナント不在のためこの系統を切り離して復電。
3.Igr方式絶縁状態監視装置の概要
1)絶縁状態の表現方法について
「絶縁状態監視装置」とは、資源エネルギー庁が、電気設備の保安レベルを維持し、保安業務の効率化の道を開くことを目的にその一部を改正した公益事業部長通達における「低圧電路の絶縁状態の的確な監視が可能なもの」を受けた技術課長通知(旧){「主任技術者制度の運用について」の一部改正に係る取扱い要領について}(昭和59年6月1日−平成7年廃止)において機械化による点検頻度の緩和のため初めて採用されたものでIo方式とIgr方式がある。
(主任技術者の不選任に係るこの通達は平成7年に廃止され翌日付けで同名の通達が
発効し数度の改正を経て昨年改正されたものが平成12年4月1日付で運用開始された。
これによると高圧系統が安全で信頼性が高い100KVA以下の需要設備の点検頻度は、
絶縁監視装置が無くても隔月点検でよいことに緩和されている。 又、同時に示された
「主任 技術者制度の運用通達の解釈指針」によれば従来の絶縁状態監視装置に設けら
れていた絶縁注意/絶縁警戒警報(15/50mA)が廃止され絶縁警報(50mA)だけで
良いこととなった。)
ここで注目すべきは絶縁の表現方法である。
従来絶縁の良否は多くの場合直流電圧で測定し抵抗値であらわすのが慣習であった。
しかし「絶縁状態監視装置」では電路の漏れ電流から絶縁状態を監視する装置となっているから絶縁の状態をあらわす数値の命数はmAとなる。
しかし、Igr方式においては「低圧電路の漏れ電流のうちから対地絶縁抵抗に起因する電流成分の変化を的確に検知するもの」とされておりその検出法に「商用周波数と異なる周波数の交流電圧を低圧電路の第B種接地工事の接地線を介して加え・・・」と記載されている如くB種接地線に絶縁検出電力を供給する信号代替法で直流絶縁抵抗計法と類似し、抵抗計法と同様に実際の商用電圧の有無に関わらず絶縁状態を計測することが出来る方式である。
従って、対地電圧のある相も無い相(絶縁劣化を起こしても電流が流れない)も絶縁の状態が同じであれば同じ電流値表示となり代替法であるが故のオームの法則上矛盾を生ずる場合がある。
よって、Igr方式で検出表示する電流値はmAではあっても絶縁状態をあらわす特殊な命数であるとして心得ておく必要がある。
例えば100V系電路で絶縁が悪く10kΩの絶縁抵抗になった場合、これが中性相の場合は漏電計では0mAであるがIR電流では10mAを表示する。
又、電圧相が同様に10kΩに劣化した場合は漏電計で10mAの商用漏れ電流が流れIR電流でも10mAを指示して両者は一致する。
言うまでもなく400V系や単相三線系統で各相が同時に10kΩとなった場合は各相の漏電電流が互いに相殺するから漏電計ではかれる零相分は極小となる。
2)Igr絶縁監視装置の動作原理
Igr方式とは漏れ電流(Ig)中の抵抗性電流(Ir)を検出して絶縁の状態を管理する方式で一言で言えば漏電電力計法ともいえる方式であることは先に述べた。
図−1はIgr絶縁監視装置の一例で基本的な動作原理説明図である。
実際の機器では、アナログ演算法の他電子サーボ系を利用した無効分抑圧法や、同期検波による位相判定法、零クロス残留値判定法など各種の方法が考案され利用されている。
図−1についてその動作を説明すると、@監視電源部(写真1・2)では絶縁計測用の低周波の電力(本例では20HZ、10V)を出力する。
A重畳用変成器(写真3)はドーナツ形のコアを使用した低インピーダンス変圧器で、その窓穴内をB種接地線が二次巻線として貫通する。
一次巻線に先の10Vの電圧を加えると変圧比1/20の0.5V(図中のVg)がB種接地線に誘起される。
B種接地線は大地埋設電極Ebと変圧器中性(接地)点に接続されているから誘起された電圧Vgは電路と大地を給電用導体(図中のハッチング部分)とする単相二線式の電源部として働き絶縁監視の電路を形成することとなる。
絶縁インピーダンスを構成するC静電容量CやD絶縁抵抗Rはこの電路の負荷を構成しており 0.5Vの電圧による電流(Ig=Igc+Igr)が流れる。
この電流をBZCTにより検出(ZCTはフィーダーに設置することも出来る)してE有効分検出回路(力率演算部)に供給する。
又、Vgも力率演算用基準電圧としてEに供給される。
E有効分検出回路ではVgとIgによる力率演算の結果として絶縁インピーダンスに流れる電流のうちから絶縁抵抗に流れる有効分電流成分Igrを分離出力する。
この電流信号は、0.5Vの代替信号で検出したものであるから、F出力電流換算回路では電路電圧との電圧比(図の例では210V/0.5V)を乗じて電路電圧210Vが対地間に加わったときに流れる電流に換算してGIR電流として出力する。
絶縁状態監視装置はこの電流の大きさに警報値を設けこれを越えたとき警報表示を行う。
又付帯機能としてIR電流の大きさを情報として出力する機能や商用周波の漏電検出機能はじめ各種周辺機能などを付帯した構成となっている。
3)Io方式とIgr方式の比較
表1は代表的な電路形式毎に、各相の浮遊容量と固定コンデンサの合成値をそれぞれCa,Cb,Cc、各相あたりの絶縁抵抗をRa,Rb,Rc,などとし、第B種接地工事の接地線に流れる電流についてまとめたものである。
表中の「IC0」は商用周波の無効電流の零相分、「IR0」は商用周波の絶縁劣化により流れる電流の零相分である。
又、「Igc」はIgr方式で検出する0.5Vの監視電源により流れる無効電流の総和、「Igr」は、Igr方式で検出する0.5Vの監視電源により流れる有効電流の総和である。
IoとIgrの方式の差が如実に現れるA単相3線、C3相3線Y結線についてIR0とIgrを比較すると商用の零相電流は各相ごとの対地電圧によって流れる電流の総和ともいえるからA、Cの例では対地常数が各相等しいとき零相電流は相殺して無くなり、各相が浸水や冠水などで均等な絶縁劣化を起こしても零相分は極めて生じがたいことがわかる。
ELBなどの動作の実際は地絡が進行して電流が増加し均等が崩れ各相の総和にELBを動作させる不揃い電流が生じて初めて動作するわけでありこのときには劣化がかなり進んでいることとなる。
一方、Igr方式での動作を見ると、絶縁検出用の電源がB種接地線だけでありこれが変圧器巻線を通して各相対地間に供給されるから電圧も位相も全て等しくこれによって流れる電流も単純な総和となり絶縁劣化が早期に検出できることがわかる。
4)Igr方式絶縁監視装置のいろいろ
実際の絶縁状態監視装置はその用途により色々なものが製作されている。
@:電気保安協会が使用するもの
これは通達と「取扱い要領について」の技術要件を適用して各保安協会がその運用管理・データ保存などの通信や情報処理手段を含めた独自の仕様としたものを高圧需要家との契約用に開発製作して使用しており主として小形キュービクルを対象とした設計となっている。
今回の運用通達解釈改正で仕様の変更等が行われている。
A:特高需要家など電気主任技術者選任事業所向けのもの
主任技術者又は保全担当者が絶縁保全を行うツールとしての目的で製作されている。
電気設備が要求する保安レベルは業種や設備の構成、扱い品目などで異なり必ずしも一様とは言えない。
自己責任・自主保安の重要視される現在、ますます主任技術者による担当設備に対応した適切な裁量が重要視されている。
絶縁監視装置としてはこの観点からかなりの幅で動作感度の調整が可能なものが製作されている。
既述の事例でも水中ポンプの浸水事故早期発見などは50mA整定では発見できない。
又、梅雨期のいっせい結露に代表される分散劣化などは僅かの絶縁劣化が広範囲に渡ることからこれに生ずる損失熱も部分に於いては少なく全体としては50mAを越えてもほとんど危険の無い場合が多い。
このような分散劣化が予想される場合は監視範囲(単位絶縁群)をフィーダーなどに分離細分化するなどのシステム設計にするとよい。
主任技術者は絶縁劣化の原因様態などを把握し絶縁監視ツールを使いこなす必要がある。
形状的には帝都高速度交通営団殿の御要請で開発したプラグインユニット形式の保護継電器形式のもの(写真4)が使用回路数の制約が無く必要な数だけ揃えればよいことと地絡継電要素を併用した使いやすさから多く採用されてきた。
最近ではRS485通信システムを搭載した8回路集合型のもの(写真5)がコストの点から多く採用されている。(写真6は120回路用絶縁監視盤の一例である)
この形式では、ELRや漏電火災警報器はじめELB等が既に設置されている設備を対象とした機種と、全回路地絡継電要素付の汎用機種があるので用途により選別に注意が必要である。
又、非接地配電系用として絶縁抵抗値を表示する方式とした機種もある。この機種では出来るだけ直流絶縁抵抗値に近似する計測をするため検出用電力を1HZ5Vと超低周波領域まで下げているが1HZとしての交流の影響は受けるのでこのことを理解して使用する必要がある。
警報の扱いについては絶縁監視システムの運用に関する保安規程細則などを作成しこれによって扱うよう標準化するとよい。
データ処理については絶縁の数値データをパソコン応用のデータ処理装置に蓄積し、傾向管理(発生時間から該当個所の割り出しが出来る場合がある)する方法など多彩である。
B:高低圧の総合監視
最近の特高需要家の構内設備については高圧系と低圧系を統合して絶縁監視を行うケースも見られる様になった。
これは、高圧系も含めて停電による保安管理を出来るだけ機械による活線常時監視に置き換え人は不具合箇所の改善や修復、再発防止などに専念出来る体制をとるためである。
高圧系では絶縁劣化の発生確率は比較的少ないが発生すると全停電など被害範囲が大きい。
又、復旧時間のかかる場合もある。
法による工事施工基準では事故発生時、他に被害を波及させないための技術基準にとどまり事故を予測して未然に防止するなどの需要家都合の設備は事業主や主任技術者の裁量によることとなる。
被害経験のある事業所などでは、予測警報用としてフィーダー用高感度Io監視システム(無方向性、方向性等がある)や、高圧ケーブルの平常絶縁抵抗を傾向観測してその変化からトリーなどによる絶縁体劣化などを早期発見するための直流ブリッジ方式高圧ケーブル活線診断装置などを併用し高低圧の絶縁を常時監視する事業所も増加している。 ZETSUEN-TR001 「基礎技術」
4.絶縁監視装置導入に関する留意事項
1)過大地絡:Igr方式では絶縁検出専用の電力を変圧器B種接地線に与えていることはすでに述べた。
この電圧はB種接地を共有する変電所内の全変圧器に与えられているから系統内の何処かに電路の完全地絡が生ずるとこれにより監視電圧が短絡消滅し絶縁監視が出来なくなる場合がある。
このような絶縁の極度に劣化した地絡事故などはVgが無くなり力率演算が出来ないことから検出できない場合があるので漏電警報器やELRなどのIo地絡過電流要素を内蔵又は併用することが必要である。
2)B種接地の重畳/非重畳:
前項の場合直ちに不具合箇所が改修できればよいが電路の中性相の地絡などでは長期にわたり改修が困難で絶縁監視が不能となる場合がある。
対策としては、各変圧器に重畳絶縁監視用B種接地と非重畳用のB種接地の2種を用意し活線で切替ができるよう二重端子などを設けておくとよい。(図3参照)
非重畳でもZCT取り付け回路の漏電検出機能は正常に作動する。
3)混信障害:絶縁監視電圧の周波数と近似する雑音成分がある場合は影響を受け、指示値がふらつくなどの障害を受ける場合がある。
4)複数重畳の干渉:B種接地を共有する複数の変圧器それぞれに別々の絶縁監視用電源を重畳した場合、いずれかの変圧器系統で地絡が発生するとこの電流が大地を流れることで大地を共有する他の重畳監視系統に干渉を与える場合がある。
重畳はB種接地極毎に一箇所とする事が運用上好ましい。
5)損失抵抗の影響:本方式は上述の如く演算の基準電圧取り入れ点二箇所から負荷側を見た時の有効分を検出する。
従って負荷静電容量と並列に入る劣化抵抗分は直流抵抗計法とほぼ同じ計測値となるが、静電容量と直列に入る大地抵抗や損失抵抗も有効分電流を生ずるのでこれを並列抵抗値に換算した電流相当分見かけの絶縁を低く表示する。(図2参照)
6)過大静電容量:ZCTから負荷側の静電容量が装置の仕様に掲げる許容最大値を超える場合計測誤差が大きくなったり静電容量過大警告を発して絶縁監視を停止する場合がある。
7)監視記録:監視記録としては必ずしも数値にこだわる必要はなく、絶縁不良個所の調査・探査・発生原因・修復はじめ監視装置とシステムの動作点検等良好な絶縁状態を維持するための作業記録も立派に監視記録である。
勿論既述のデータ処理システムなどを利用すると不良機器の使用された時刻から不具合機器を特定できるなどの時系列的な利便は大きい。
8)警報発生時の対処:活線絶縁追い込み探査(図−3参照)
絶縁又は漏電警報発生時はまず商用周波地絡電流の大小の確認を第一とする。
絶縁領域(数百mA)を越える商用零相電流で平常値を遙かに超えるものであれば直ちに漏電計で地絡の探査追い込みを行い原因を特定する。 放置して電気火災や人身事故とならぬよう適切な扱いが肝要である。
商用の地絡電流が少ない場合は絶縁故障探査機でIR電流を追って探査する。
9)探査箇所の確保:絶縁監視システム適用電路(漏電警報機の場合も同じ)では、活線絶縁探査が不可欠となるから工事に際しては関係者に指示してクランプセンサーの使用しやすい場所(クランプスポット)を電路の要点に確保することが重要である。
これがないと警報が発生しても対処の方法がなく苦慮する場合が生ずる。
10)常時地電圧の上昇:B種接地極とD種接地極間には変圧器負荷側からの常時漏れ電流が流れ降下電圧が生じこれが絶縁監視装置の許容値(一般的に10〜20V)を越えると誤差となったり計測不能となる場合がある。
地電圧は漏れ電流と大地抵抗の積であるからこれを防止するにはB種接地極を変圧器毎に分散離隔して埋設する方法がある。
この方法は、不用意に使用した高感度漏電遮断器の貰い動作防止にも役立つ。
又、中性点でない一端子を接地したΔ結線変圧器は大量漏れ電流の原因となるから使用する変圧器を極力Y結線とし中性点の接地を行うのが望ましい。
低抵抗の銅網敷設や建造物構造体共同接地などの接地極間抵抗の低減化も一法であるが万一の時、地絡電流が増加することと電気機械器具の絶縁破壊時接触電圧が上昇するなどの弊害も多い。